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2025.06.06

実家の家族信託は危険ってホント?よくある失敗例と後悔しないためのトラブル回避対策とは

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50代にさしかかると、親の介護の心配、築年数が経った実家をどうしていくのか、といった悩みも出てくる頃でしょう。

鈴木マコトさん(仮名・50歳)も、父が一人暮らしをしており、実家をどうするつもりなのか気になっています。まだしっかりしているので切り出しにくいものの、何かおきてからでは困ります。「あの時相談しておけば」と後悔しないよう、今のうちに準備したいのが本音です。そのため、最近注目の家族信託について、実家の土地や家の管理・処分を受託すべきか検討中です。

「親が認知症になる前に、実家をどうするのか対策しておきたい」

「家族信託って流行っているようだけど、トラブルもあるって聞いて心配」

そう考える方に向けて、この記事では簡単な制度の内容とよくある失敗、危険性、あらかじめトラブルを回避するための対策・ポイントをご紹介します。

目次

  1. そもそも家族信託ってなに?
    1. 家族信託とは信頼できる家族や第三者に財産の管理・処分を任せる手法
    2. 家族信託を利用する目的
    3. 実家の家族信託を受ける場合に必要な書類や費用とは
    4. 家族信託は相続税や贈与税はかかるのか?
  2. 実際によくある!家族信託が失敗した事例と対策
    1. 例①:親子間の信頼関係が崩れてしまった!「親子だから大丈夫だと思ってたけど...」
    2. 例②:実の妹と家裁調停に発展!信託契約が曖昧だったケース
    3. 例③:「父の優しさが、裏目に...」不動産の活用ができなくなったケース
  3. いい制度なはずの家族信託、なぜ失敗する?
    1. 家族信託で注意すべき点
    2. 家族信託で失敗しないためのポイント
  4. まとめ:「危ないからやめる」ではなく、「制度を正しく使って味方に」

1.そもそも家族信託ってなに?

1-1.家族信託とは信頼できる家族や第三者に財産の管理・処分を任せる手法

32614200_s+.jpg家族信託とは、親が亡くなってから財産を受け継ぐ相続成年後見制度とは異なり、大切な財産を信頼できる家族に託せる制度です。財産を信託する「委託者」、信託された財産を管理する「受託者」、信託された財産から生じる利益を受け取る「受益者」によって構成されます。親が生前、かつ判断力があるうちに行うもので、例えば前述のマコトさんが実家の家族信託を受けた場合、親は委託者、信託を受けたマコトさんは受託者、親が実家に住み続ける場合は親が受益者でもあります。いざ親が施設への入居が決まった際、受託者であるマコトさんが処分を決定、売却で得たお金を施設への支払いに充てることもできます。

どんなにしっかりとした方でも、加齢や認知症などで判断や思考する能力が低下すると、持ち家や預金、保険の証書といった財産の管理が難しくなっていきます。今はまだ元気という方でも、いつどうなるかはわかりません。家族信託は、財産も家族も守るために使う方法のひとつ。親と相談するなら、電話やメールでのやり取りだけではなく、可能な限り会って直接話し合うようにしましょう。また、話し合いで定めた内容はメモを取り、後日、親と情報共有することで、話が違うなどのトラブルが避けられるでしょう。

1-2.家族信託を利用する目的

ご家庭によっていろんな事情がありますが、制度を利用する目的としてよくあるものをいくつかご紹介します。

・資産の管理・処分

資産所有者の意思能力が低下しても、所有者名義の資産の管理や処分、運用を、法的に認められた権限で家族が行えるようにしておく、という目的です。実家の土地や家を受け継いで住む予定がない場合に、親と相談して家族信託をしておくという方がいます。

・介護費用の捻出

介護で施設に入ることになったあと、家の管理や処分を家族に任せることで、介護に必要な費用を捻出する目的です。受託者側にとっても、いざ親の介護が必要となった時、親名義の資産を処分することで費用を補填できるため、家計とは別に費用を捻出できて安心です。

・不動産の共有によるトラブル防止

親族が共有名義で不動産を保有している場合に、将来的な共有者間のトラブルを避けるために家族信託の制度を利用することもあるようです。

1-3.実家の家族信託を受ける場合に必要な書類や費用とは

家族信託は、受託する側にとっては家族が所有する財産の管理・処分を任されるものです。財産は土地や家、預金、保険などさまざまなものが当てはまりますが、ここでは実家の家族信託を受ける場合について考えてみます。

まず、契約のために公正証書を作成する必要があります。あわせて、受託する不動産の登記簿、信託口座開設のための書類などが必要です。あわせて、証書作成の費用や不動産登記の費用、登録免許税、コンサル等を依頼する場合はその費用もかかることになります。

1-4.家族信託は相続税や贈与税はかかるのか?

受益者や受託者の関係などで関係する税金がかわるため、かならずこの税金がかかります、とひとことに言えないのが家族信託です。例えば、親が暮らす実家の管理を任されても、実家に住み続ける、貸し出して得た収入をもらう等の受益者が親本人だとしたら、贈与税はかかりません。一方で、委託者である親と受益者が異なる場合、受益者に財産が贈与されたとみなして贈与税がかかります。

また、委託者であり受益者でもある親が死亡した場合、信託の内容に基づいて新たな受益者に権利が相続されるので、相続税がかかります。

ほかにも、譲渡所得税、住民税など、さまざまな税金が発生する可能性があります。財産を守るつもりが、かえって税金がかかって高額な請求をされる事態に陥らないよう、家族信託の内容は慎重に決める必要があります。

2.実際によくある!家族信託が失敗した事例と対策

2-1.例①:親子間の信頼関係が崩れてしまった!「親子だから大丈夫だと思ってたけど...」

ひとり息子の聡志さん(仮名・51歳)は、当時79歳の実母から「実家の管理をお願いしたいの。頼むわね」と言われて口頭で家族信託の同意をしました。その後、ネットで見つけた家族信託の契約テンプレートを見ながら契約書を自作し、これで十分だろうと受託者として登記も済ませました。半年後、母の長期入院が決まったため、母の許可に関係なく賃貸として知人に貸し出そうとすると「そんなつもりで任せてない!」と怒りの電話が。お母さんは維持管理を任せただけ、聡志さんは管理も処分も自由な決定が可能だと思っており、認識の違いが原因で母子の関係は悪化してしまいました。信託の解消をしたものの登記まで済ませていたため、手続きが煩雑になり、苦労が倍になってしまいました。 

ポイント・対策

・口約束や自作の書類は、認識の食い違いもおきやすくて危険!

・どうなったら売る、貸していいのか、誰に相談するか、など事前に親子で決めて、契約書に入れる

2-2.例②:実の妹と家裁調停に発展!信託契約が曖昧だったケース

雅也さん(仮名・50歳)は、80歳になった父の希望で実家を任されることに。家族信託の契約書には「受託者は長男(雅也)、受益者は父」とだけ記載して締結、父の生前中は維持管理するだけだったので問題ありませんでした。ところが、父の死後、実家をどうするのかで妹と意見が対立。契約書には父の死後に「売却する」「不動産は誰が所有することになるか」などの記載もなく、誰がどう意思決定すべきか不明確でした。もちろん、遺言などもありません。結局、実家を売却したい雅也さんと、売却に反対する妹は、家庭裁判所で調停することに。あとで揉めないための家族信託のつもりが、内容の不備でかえってトラブルになってしまいました。

ポイント・対策

・家族信託の契約書には、受益者の父が亡くなったあと、帰属権利者の指定や受益者の変更方針なども想定して入れること

・ひな形にそった契約書ではなく、家族の事情を反映した契約書の作成が大事

2-3.例③:「父の優しさが、裏目に...」不動産の活用ができなくなったケース

3人姉弟の長女でしっかり者の千恵さん(仮名・53歳)は、数年前に父から「実家を将来うまく処分してくれ」と頼まれ、家族信託の契約を結びました。ところが、父は「千恵ひとりに負担をかけるのはしのびない」と、信託契約の受託者をもうひとり、信頼していた"いとこの長男"も設定。千恵さんや弟たちには事後報告でした。信託契約は無事に完了したものの、いとこの長男は遠方に住んでおり、不動産の管理や売却の相談にも乗ってくれず、ほぼ「名義だけの受託者」に。父の死後、相続人である千恵さんが「空き家になった実家を売却したい」と申し出ても、受託者との連絡がとれず手続きが進みません。その間も固定資産税などの税金が発生、草刈りや屋根瓦の修繕といった費用は千恵さんが支払い続けることに。せっかく信託をしたのに、何もできない、という状況で困ってしまいました。

ポイント・対策

・家族信託では、信頼できる人物かどうかだけでなく、実際に動いてくれる人を受益者に選ぶことが大事

・受益者が複数いると、その中のひとりが対応できない場合に「管理や処分を任せる」という信託の目的が果たせず、管理にもいちいち相談が必要になって煩雑になるリスクも。

3.いい制度なはずの家族信託、なぜ失敗する?

3-1.家族信託で注意すべきポイント

  • 家族間のコミュニケーション不足
  • 自作契約書や無料テンプレートのリスク
  • 不動産の名義変更・登記の問題
  • 税務面・制度上の誤解(例:節税対策としての誤用)

いくら家族間の仲がよかったとしても、その時々で家族の状況が変われば、考えも変わる可能性があります。どういう状況になったら財産を処分するのかなど、お互いに納得できるようしっかりと相談しておくことが大事です。また、司法書士や行政書士などの専門家に相談せず、費用を抑えようと自分たちで契約書を用意した場合、じつは法的には認められない、正しく信託・受託されていない、なんてことも起こるかもしれません。

3-2.家族信託で失敗しないためのポイント

  • 事前に「家族会議」を開く
  • 司法書士や行政書士、税理士など専門家のサポートを受ける
  • 不動産の今後の使い方も含めた"運用プラン"を立てる
  • 契約書は必ず書面にし、将来の変更も視野に入れる

実家や親の財産をどうするのか、事前に親本人や兄弟と集まって方針を相談することが大事です。人によって意見が違ったり、父と母でも意見があわなかったりと、仲の良い家族であっても考えが違っていることはよくあるためです。その上で、専門家に相談して契約内容を決めて契約書を作成し、今後の管理・運用や、もし変更する場合のことも決めておくと安心です。専門家にどこまで相談するかでかかる費用もかわってきますが、そこも含めて家族で話し合うことをおすすめします。

4.まとめ:「危ないからやめる」ではなく、「制度を正しく使って味方に」

家族信託は万能ではなく、メリットもデメリットもあります。そのため、家族信託を利用したい場合、大切なのは「親が元気なうちに」きちんと相談をし、「正しく備える」ことです。状況や目的に応じて、適切に、正しく仕組みを使うことで、実家や家族を守る手段になります。

家族信託を実際に行うかどうかはさておき、家族で先のことを話し合っておくのは大事なことです。親が終活としてきちんと財産や処分、相続についてなどもまとめてくれている場合を除き、「言わなくてもわかってだろう」「いいようにしてくれたら」と思って整理していないことも多いのではないでしょうか。実家から遠方に住んでいると、いざ親になにか起きた時、実家の管理や処分に困るという方もよく聞きます。

「最近、家族信託っていう制度があるらしいよ~」などと家族信託をきっかけに使って、親の意向をまずは聞いてみてはいかがでしょうか。

実家についてお悩みの方は、その他のコラム高齢の親の住まいは、どうすべき?どんな選択肢がある?もぜひご覧ください。

執筆:ライターY

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