賃貸経営ニュース

2025年8月1日

高齢者の入居を受け入れる際のリスクと対策は?

高齢者の入居受け入れは、有効な空室対策の1つ

これから先、「高齢者の受け入れをすべきか」で迷っているオーナー様も多いのではないでしょうか。
現在、多くのエリアで高齢化が進んでおり、それに伴って高齢者の賃貸ニーズも高まっています。
高齢者の受け入れは、空室対策として有効な手段のひとつですが、いくつかのリスクがあるのも事実です。
ここでは、そのリスクと対策について解説します。最後までお読みいただくと、受け入れについての判断がしやすくなるはずです。
はじめに、賃貸物件において高齢者の受け入れがどの程度進んでいるのか、現状を確認してみましょう。
全国賃貸住宅新聞(2025年6月15日付)が全国の管理会社を対象に行った調査によると、高齢者の入居を「積極的に行っている」「行っている」と回答した積極派の割合は、合わせて約56%でした。
一方、「あまり行っていない」「ほとんど行っていない」「行わない」と回答した消極派の割合は、約44%となっています。
つまり現時点では、高齢者の受け入れを行っている割合はほぼ半々で、やや積極派が多いという状況です。
ただし、今後はこの積極派の割合が増えると予想されます。
人口減少がさらに進み、入居者の確保が厳しくなる中、打開策として受け入れを検討する物件は今後さらに増えると考えられるからです。

孤独死リスク:センサーによる見守りサービスを導入

高齢者の入居受け入れは、空室対策として有効な手段ですが、以下のようなリスクや問題も抱えています。

①孤独死のリスク:家賃の減額や高額な原状回復費が発生する可能性がある
②残置物処理のリスク:残された家具・家電などの処分が難航する
③保証人不在の問題:亡くなった後の家賃回収や事後対応ができない

これらのリスクに対する備えが不十分なまま高齢者を受け入れてしまうと、「長期空室の発生」や「多額の原状回復費が必要になる」など、思わぬトラブルに発展するおそれもあります。
まず1つ目の「孤独死リスク」について見ていきましょう。孤独死が発生した場合でも、通常の病死で早期に発見されれば、賃貸経営への影響は軽微です。
しかし、発見が遅れると、次の入居者への告知義務が生じたり、高額な原状回復費用が必要になったりなど、深刻な問題に発展する可能性があります。
こうした孤独死リスクへの対策として有効なのが、「見守りサービスの導入」です。主なタイプには、以下のようなものがあります。

・入居者宅への定期訪問型サービス
・警備会社による緊急通報システムの設置
・センサーを活用した見守りシステム

この中でも、導入しやすくコストも抑えられるのが「センサーによる見守りシステム」です。
たとえば、ヤマト運輸が提供する見守りサービスでは、専用の電球に交換するだけで導入が可能です。初期費用0円、月額1,738円(税込)で利用できます。
電球のオン・オフが一定期間ない場合に異常を検知し、設定されたメールアドレス宛に通知が届きます。必要があればヤマト運輸のスタッフが安否確認に訪問する仕組みです。
こうした見守りサービスを活用することで、万が一、孤独死が発生した場合でも早期に対応でき、オーナー様の精神的負担を軽減することが可能になります。

残置物処理リスク:死後の委任契約を交わしておく

孤独死が発生した際、相続人や近親者と連絡が取れないと、残置物の処理に関する問題が発生します。
残置物処理とは、残された所有物を整理・保管・処分することを指します。
これらの残置物は、原則として相続人の所有物であるため、オーナー側が勝手に処分すると、損害賠償請求などの法的トラブルに発展する可能性があります。
このようなリスクを軽減する手段のひとつが、「残置物処理に関する死後事務委任契約」の締結です。
これは、本人が生前に、死亡後の事務手続きを信頼できる第三者(管理会社など)に委任しておく契約のことです。
入居時にこの契約を結んでおけば、以下の対応がスムーズになります。

・家具や家電、生活用品の整理・処分
・室内の原状回復および鍵の返却
・ゴミや不用品の撤去 など

あらかじめ死後事務委任契約を結んでおくことで、速やかに残置物を処理し、室内の清掃や修繕を開始できます。
その結果、空室期間を短縮でき、経営上のダメージを抑えることにもつながります。
なお、この委任契約は、公正証書として作成するのが望ましいですが、法的には私文書でも有効とされています。

保証人不在の問題:高齢者向けの家賃債務保証会社を利用

結局のところ、孤独死や残置物の問題は、「連帯保証人を設定できないこと」が根本的な原因といえます。
高齢者の場合、身内がすでに他界していたり、親族と疎遠になっていたりなどのケースが多く、契約時に連帯保証人を確保できないことが少なくありません。
オーナー様が空室を早く埋めたいという理由で、連帯保証人のないまま高齢者を受け入れてしまうと、後に孤独死や家賃滞納、認知症によるトラブルなどが発生するリスクが高まります。
このようなリスクを軽減するには、「高齢者向けの家賃債務保証会社」の利用が効果的です。
保証会社を利用すれば、入居者が家賃を滞納した場合でも、保証会社がその分を立て替えてくれます。
さらに、孤独死が発生して高額な原状回復費用が必要となった場合でも、一定の金額を補償してくれるプランもあります。
多くの保証会社では高齢者専用のプランを用意しています。たとえば、(一財)高齢者住宅財団では、60歳以上の高齢者と家賃債務保証契約を結べる制度を提供しています。
このプランでは、契約者が家賃を滞納した場合に最大12ヶ月分、原状回復費用については月額家賃の9ヶ月分相当額まで保証されます。
なお、保証料は原則として入居者側の負担となっているため、オーナー様側の費用負担は発生しません。

高齢者受け入れの費用を補助「住宅セーフティネット制度」

この他、高齢者を受け入れるための施策として、転倒防止のためのバリアフリー化が考えられます。
「住宅セーフティネット制度」を活用することで、バリアフリー化に必要な費用を補助してもらえる可能性があります。
この制度は、住宅確保要配慮者(高齢者、低額所得者、子育て世帯など)の入居を拒まない賃貸住宅の登録をするものです。
登録することで、家賃債務保証会社の利用料の補助や、入居者の見守り支援のサポートを受けられることもあります。